若い頃、毎日のようにロックバーで飲んでた頃の話。
たまたま、客がいなくて、北海道出身のバーテンダーと競馬の話しながら飲んでた。
たぶん、先週の外れたレースの話とかだったと思う。
「おっしゃ!出来たっ!と思ったらさ、最後の最後で3着がクビだけ変わってやんの。」
「まぢっすかぁ?」
「ほんと、ゴール板前で、ピョロっと変わってんの。やれやれよ。」
「そりゃ、飲むしかないっすね。」
そんな会話してた。
ロックバーだ。メインは音楽。
良い音楽がかかってればいい。
そのバーテンダーは、ちと音にうるさかった。
嫌いじゃないし、悪くない。
気分を読んで選曲してくれるやつだ。
だらだらと飲んでると、1人顔を見たことあるような女が入ってきた。
酔ってるのか、気を引きたいのか知らないが、上機嫌だ。
俺はたいした興味もなく飲んでた、バーテンダーは俺とその女を交互に相手にしていたと思う。
そこで、なぜか競馬の話になった。
「私競馬知ってますよぉ、一回だけやったことありますぅ」とかなんとか話し始めた。
しょうがないから、「どんなレースだったの?」と聞いた。聞いた俺が馬鹿だった。
「あー、なんかぁ有名な馬が死んだレース!」
ピキッ…なんか、頭の辺で音がした。
「おうおう、わかった。それは京都で、その馬はライスシャワーていうんだろ?」
「そうそう!そのレースですぅ!当たったんですよぉ!」
駆け寄るバーテンダー。彼は何かを察した。
「おい、バーテンダー、この女に2度と喋らすんじゃねぇ。そして、俺とお前にテキーラ持ってこい。とにかく、俺に2度と喋りかけさせるな。」
「わかりました。どうか抑えてください。」
「にしたって、死んだて言い方ぁねぇだろう?」
「すいません。僕が謝ります。」
そのバーは、俺がkatsuさんと出会った場所で、バーテンダーは俺のご近所さん。たまにプライベートで飯食いに行ったりしてた。
katsuさんと出会って間もない頃、焼き鳥屋に連れてかれ、「おまえ競馬好きなんだろ?今日は競馬の話でいこうぜ!乾杯!」なんて、やってたわけだ。初めての店で、なんだか酔ってしまってさ、小さな黒鹿毛の話をしてたら涙が止まらなくなってさ…
ほんと、なんなんだろう?
俺が衝撃を受けたのは晩年の、力が衰えた1レース。
パドックから、尋常じゃない雰囲気に素人目には見えた。
スタートし、なかなか進んでいかない。
三角前、誰にも促されず動き出す。
四角突き放したが、もう脚は残ってない。
ゴール前、脚は回れど前に進まない。
それでも、ライスシャワー。
誰にでも触れちゃならない傷がある。
俺にその傷をつけた馬が、ライスシャワー。
ナリタブライアンに衝撃を受けて、競馬に興味を持ったと言うけれど、あの春の天皇賞がなければ、ここまで競馬に…
うまく言えないな。
言いたくもないけれど。
わかって欲しいとも思わない。
ただ、ただ…
わかるやつらがいる。わかってくれるやつらが…
ありがたいね。
殺したいと言っていいのは、殺される覚悟があるやつだけ。
それで通じない奴には、もう何もいう気がない。
俺はkatsuさんの言葉が好きだ。
負けても乾杯。
まずは全馬無事に。
スタートしてゴールがある。
それがどこなのかはわからない。
だから、みんなも…
負けても乾杯。
全馬無事に。
ほんと、小さい頃、ゲーセンで遊んで帰って、録画してたビデオ見た時の衝撃を忘れられない。
なんとも言えぬ雰囲気でパドックを回る小さな黒鹿毛。
あれはなんだったんだろう?
ブルボンもマックイーンもなのか?
その答えが知りたくて、競馬を見てるのかもな…