耐えられないから飲んだ。
忘れるために浴びた。
いつからか覚えてられなくなった。
目の前で起きたことも、身体で感じたことも。
すべては流れ去るものになった。
それでも何かが残り、積み重なっていくのかもしれない。
だから書くのかも。
ダービー、起点で終点。
終わって始まる。
その繰り返しが、日本近代競馬の歴史。
なんにでも初めてがある。
私はウオッカ。
初めて生で見たダービー。
導かれたのか、なにかに吸い寄せられたのか。
「ダービーは見たい。」
悪友が言うので、指定席を申し込んだ。
結果は外れ。
東京開催が始まり、毎週申し込んでいたが、外れたのはゴールデンウィークの時だけだった。
さすがにダービーは無理かな。
今年もダービーを生で見ることは叶わないのか。
指定席はだめだったが、入場券も申し込んでみた。
それでだめなら諦めるしかない。
ダービーが終わったら、少し競馬を休もう。
金もないし、気力もない。
とりあえずの最後にしよう。
そんなふうなことを思いながら日々を過ごしていた。
ある日の仕事終わり、スマートフォンに当選の通知。
無理を言って、月曜日も休みをとった。
悪友とパドックにいた。
初めての生ダービーパドック。
ふたりの目によく見えたのは、1番、2番、13番。
特に13番だった。
レース前、いつもの観戦エリアに向かった。
勝負所の4コーナー付近。
入場制限のおかげだろう、ゲート付近がすいていたので、そこで見ることにした。
初めての生ダービーゲート入りだ。
大歓声が起こる。
目の前の男は何か叫んでいる。
輪乗り、1番がぐずりはじめた。
お願いだから静かにしてくれ。
叫びたい気持ちを抑える。
ゲートが開く。
そして、その時はきた。
目の前を何かが抜け出してくる。
すぐに右を向き、先を、ターフビジョンを確認する。
「武豊だ!」
ルメールが近づく。
やはり、血統高評価のイクイノックスか?
ドウデュース凌げるか?
「武豊だ!」
ゴールを見届け、左を向くと悪友が…
私は顔を見ないようにし、何が起こったか考えた。
左から来た時に感じたものを。
泡立った左腕を。
「鳥肌立ったな?」
「うん。6回目?生で武豊がダービー勝つの見ちゃったよ。」
「そうだな。やっぱり武豊だ。」
「武豊だね。」
この記憶もそのうち忘れてしまうだろう。
書いて残しても、泡立った左腕の感触も。
それでいい。
それでもいいから、そこに身を置く。
置き続けたいと思う。
武豊もドウデュースも、これが最後の勝利もなるかもしれない。
未来のことはわからない。
けれど、私は見た。
時計では計れない、歴史を刻む末脚を。
これからは、「第89回日本ダービーをドウデュース号と武豊騎手が勝ったのを見たpirocksです。」と言える。
最初の日本ダービーはウオッカ。
そして、武豊が日本ダービーを勝つところを見た。
なんと幸せな競馬人生だろう。
あの瞬間感じたもの。
あの一瞬が、ダービーを勝つ脚なのだ。
あの感覚と感触は、生きてる限り、何度でも味わいたい。
おめでとう!
ありがとう!
ドウデュースと武豊!
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