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第89回日本ダービー

耐えられないから飲んだ。
忘れるために浴びた。
いつからか覚えてられなくなった。
目の前で起きたことも、身体で感じたことも。
すべては流れ去るものになった。
それでも何かが残り、積み重なっていくのかもしれない。
だから書くのかも。

ダービー、起点で終点。
終わって始まる。
その繰り返しが、日本近代競馬の歴史。

なんにでも初めてがある。
私はウオッカ。
初めて生で見たダービー。
導かれたのか、なにかに吸い寄せられたのか。

「ダービーは見たい。」

悪友が言うので、指定席を申し込んだ。
結果は外れ。
東京開催が始まり、毎週申し込んでいたが、外れたのはゴールデンウィークの時だけだった。
さすがにダービーは無理かな。
今年もダービーを生で見ることは叶わないのか。

指定席はだめだったが、入場券も申し込んでみた。
それでだめなら諦めるしかない。
ダービーが終わったら、少し競馬を休もう。
金もないし、気力もない。
とりあえずの最後にしよう。
そんなふうなことを思いながら日々を過ごしていた。
ある日の仕事終わり、スマートフォンに当選の通知。
無理を言って、月曜日も休みをとった。

悪友とパドックにいた。
初めての生ダービーパドック。
ふたりの目によく見えたのは、1番、2番、13番。
特に13番だった。

レース前、いつもの観戦エリアに向かった。
勝負所の4コーナー付近。
入場制限のおかげだろう、ゲート付近がすいていたので、そこで見ることにした。
初めての生ダービーゲート入りだ。

大歓声が起こる。
目の前の男は何か叫んでいる。
輪乗り、1番がぐずりはじめた。
お願いだから静かにしてくれ。
叫びたい気持ちを抑える。
ゲートが開く。

そして、その時はきた。
目の前を何かが抜け出してくる。
すぐに右を向き、先を、ターフビジョンを確認する。

「武豊だ!」

ルメールが近づく。
やはり、血統高評価のイクイノックスか?
ドウデュース凌げるか?

「武豊だ!」

ゴールを見届け、左を向くと悪友が…
私は顔を見ないようにし、何が起こったか考えた。
左から来た時に感じたものを。
泡立った左腕を。

「鳥肌立ったな?」

「うん。6回目?生で武豊がダービー勝つの見ちゃったよ。」

「そうだな。やっぱり武豊だ。」

「武豊だね。」

この記憶もそのうち忘れてしまうだろう。
書いて残しても、泡立った左腕の感触も。
それでいい。
それでもいいから、そこに身を置く。
置き続けたいと思う。

武豊もドウデュースも、これが最後の勝利もなるかもしれない。
未来のことはわからない。
けれど、私は見た。
時計では計れない、歴史を刻む末脚を。

これからは、「第89回日本ダービーをドウデュース号と武豊騎手が勝ったのを見たpirocksです。」と言える。

最初の日本ダービーはウオッカ。
そして、武豊が日本ダービーを勝つところを見た。
なんと幸せな競馬人生だろう。
あの瞬間感じたもの。
あの一瞬が、ダービーを勝つ脚なのだ。

あの感覚と感触は、生きてる限り、何度でも味わいたい。
おめでとう!
ありがとう!
ドウデュースと武豊!

pirocks

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