ジャパンカップデーの日曜。
東京競馬場は朝からたくさんの人。
運良く抽選が当たり、現地観戦できることになった。
パドックで世界の馬がどんな仕上げをしてくるか?
それを目の前で見られると、すごく楽しみだったが、この人の多さでは…半ば諦めていた。
ジャパンカップの前11レースにパドックへ。
裏の最上段くらいのとこに陣取る。
ダービーのドウデュースのように、キラキラと輝くような馬がいるか?
秋天のイクイノックスのように、ギラギラと唸るような馬はいるか?
早く出てこないかなと、ワクワクしていた。
パドックの中へ、係員の人が番号が書かれたシートを置いていく。
若い女の子が、馬番と馬名が書かれたプラカードを持って、それぞれの位置へ。
関係者の方々が出てこられる。
外国の方がちらほら。
ジャパンカップだなあと思う。
遠い国からようこそ日本へ。
あなた方の挑戦で、素晴らしいレースの予感。
やがて出走馬があらわれた。
今年最後の府中、東京競馬場開催。
一年の締め括りだ。
生のパドックから何を感じられるか?
自分が良いと思う馬はどんなのか?
どれたけ素晴らしい馬を見られるか?
ここからは、自分と自分の勝負。
目を凝らし耳を澄まし感覚を研ぎ澄ます。
何かを感じ、受け取り、積み重ねるのだ。
「どの馬がいい?」
「んー、まだよくわかんないな。」
まだ外野の声が聞こえる。
もっともっと集中するんだ。
音が消えるくらい。
「もう少し前で見たい。」
「前に少しスペースがある?」
「どこか抜け出せるとこある?」
「右手にあるぞ!」
人がいなくなったスペースに潜り込む。
前から三列目くらいだ。
目の高さに馬の顔。
「1番シムカミルは悪くなさそう。気分良さそうに歩いてる。」
「あとはどう?」
「3、4あたりもいいね。」
「ヴェルトライゼンテとトラストケンシン?」
「グランドグローリーは、いまいちかなあ。ヴェラアズールは良いかんじ。悪くない。」
「デアリングタクトは良い時の迫力はないかも…」
「ん?ユニコーンライオンは良いなあ。」
「ダノンベルーガは…シャフリヤールもそこまで良くは見えないかな?」
「馬券はどうするの?あんま悩んでると混んで買えなくなるんじゃ?」
「もう少し待って。あと一周。」
「わかったよ。スマッピーに言ってた馬を印しとくから。」
「ありがとう。決まった。」
「お?どうする?」
「カラテとシムカミルから。」
「まぢ?」
「うん。昨日のプラス分なくなったから、来週の予算を投入して厚目にいく。」
「まぢ?」
「今期の総決算。外れても悔いはない。」
「サイトに上げた予想と違うじゃん!ま、それもあんたらしいか。それじゃ、馬券買って指定席行こうぜ!」
そしてレース。
馬群は一団で直線を迎えた。
スローだったのもあるが、いつもよりタイトな気がした。
坂にさしかかり、川田が出る…
さあ、あと一息、
何が勝つ?
「シャフリヤールだ!シャフリヤール勝った!」
「違う!ムーアだ!」
このコラムは2行書きたいだけで始めた。
そこにいて、感じ、反応し、反射的に叫んだことを。
競馬と私しかいなかったこと、その間には何もなかったこと。
正確には、この2行の間に、もう1人の私の声が入る。
「シャフリヤールだ!」
(ダービー馬だ…)
「ムーアだ!」
(内から?どっから来た?)
「」の私は興奮し、()の私は泣き、呆れた。
レース後の藤原英昭調教師のコメントが印象的だったので、最後に要約で引用させてもらう。
「エイシンフラッシュに負けたな。負けるならこの馬だと思ってた。思ったよりスロー。外々を回らされたが、得意な舞台なので最初からあんな競馬をしようと思ってた。このレースに関しては100点。勝った馬も100点だけどね。」
ヴェラアズールは師が管理して日本ダービーを勝ったエイシンフラッシュの産駒。
シャフリヤールとデムーロで100点満点。
ヴェラアズールとムーアは120点だったかな?
今期最後の府中、素晴らしい勝負を見られて大満足。
ダービー馬の痺れるような差脚。
ダービー馬の子の捩じ伏せる脚。
府中の2,400は伊達じゃないね。