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京都競馬場は改修中。

急に仕事のスケジュールがあいた。
世の中何が起こるかわからない。
せっかくなので、盆過ぎに予定してた夏休みを先取りすることに。
3年ぶりに旅に出た。
何かを見るではなく、人に会いに行く旅だった。

帰省し、母を連れ福岡へ。
これが最後になるかもしれないと、昔よくしていたように方向だけ決めて車を走らせる。
宿が取れたところが目的地。
そこで食べたり見たりするものを決める。
今回は古社をいくつかと、小さな島一周ドライブとなった。

散歩が趣味の母。
呆れるくらい毎日歩く。
旅に出れば、遅れずについてきていた。
今は階段、足下の良くないところは…
これからは見たいという風景も、連れて行けるところは限られてくるだろう。
「あそこ良かったね、あれは美味しかったね。」
そう笑いながら話す母。
あとどれくらい私達には時間が残されているのか…
若い頃は時間は無限に感じてたのに。

体調を崩した叔父を訪ねた。
その変化を見てショックを受けた。
母が顔を見せに行けと言うのも頷けた。
近しい人の変化を受け入れるのは難しい。
なるべく長く話していたかったが、電車の時間が迫っていた。
転がる石は誰にも止められない。
意思はなくとも流されていくだけ。

さらっと叔父と母と別れ俺が向かったのは…
桜花賞、フィリアプーラに会いに行った以来の兵庫。
今回は「りっちーぶらっどもあ」改、みんなのアイドル「りっちーまうす」に会いにきた。
いつもはみんなに府中に来てもらう。
この度の旅は、俺がみんなに会いにいく。
駅に着き改札へ向かうと、その向こうに「りっちー」が。
歳も近いし、3度目ともなると緊張もない。
いつもの仲間に久々に会う、そんな感じですぐに話し始める。
会話は切れない。
「りっちー」は色んなものに興味があって、その中のいくつかは俺の趣味でもある。
競馬はメインではない。
俺たちのそれぞれの中の1つだ。
お互いの生活があり、人生があり、その中に競馬がある。

その夜は旅疲れ、移動の連続に疲れてるだろうから、あんまり深酒する気はなかった。
次の日はこの旅の目的、京都競馬場だったから。
関西に不慣れな俺を「りっちー」が淀までエスコートし、「つのちゃん」と合流し競馬予定。
だが俺の悪い癖が出た。
楽しすぎると飲みすぎる。
兵庫は酒も魚も良かった。
女は?それを知る前に寝てしまった。

なんとか集合時間までには目が覚めた。
二日酔いをシャワーで流し、一服しながら着替える。
もう少しで旅が終わるのだと思うと、少しセンチメンタルな気分。
また日常が戻り、今回の旅の感じたものが落とし込まれればダウナーになるだろう。
だがまだ沈む時ではない。
旅はまだ終わらない。

駅に着く。
聞くと京都まで2時間くらいだと。
朝から「りっちー」とお喋りは止まらない。
昨日から競馬だけでなく、線路の上で危ないけれど、話は脱線しっぱなし。
決められたレールを走れない俺たちなのかも。

キセキの菊花賞以来の淀。
その時の宿は大阪だったので、なんとなく乗換は想像ついた。
まあ「りっちー」に任せてるので安心。
迷うことなく淀に到着。
さあ「つのちゃん」を探せ!
SNSで繋がって2年くらい?
でも、実際に会うのは今回が初めて。
先に捕捉してやろうと、「りっちー」とあのおっさんやない?
いや、あんな感じやないやろ?とか好き勝手言いながら歩く。

おらんな…
このままじゃ競馬場に入ってしまう…
しゃあなしに電話してみると、反対の出口にいるらしい。
そちらの方に歩いていくと、見つからないように顔を手で隠してるおっさんがいた。
YouTube「博打の天才」のTシャツを着て。

「つのちゃーん!」

「すぐわかったわ。」

「わしらもすぐ気づいた。」

「はじめまして、みんなのアイドルりっちーでぇーす!」

「ほないこか。」

さすがに長い間やりとりしてるし、Twitterのスペースで話してるから、初めて感と緊張感はない。

「何レースくらいからやれるかな?」

「わからん。」

「あ、とりあえずライスシャワー行こうや。どの辺かわかる?」

「競馬場新しくなったしな…」

「ん?あっちじゃない?あんな隅の方やったっけ?」

「前もそうやろ?たぶん変わってへんで。」

碑の前で手を合わせる。
もう少しなんていうか、込み上げるものがあるかと思ったけど案外普通。
競馬場が新しくなったから?
その気持ちは一旦置いといて、新しくなったスタンドへ歩いていく。
指定席など改修中ということで、2階までしか行けないみたい。
座れそうなとこはすでになかったので、パドックの階段を基地にすることに。

「いつも聴いてるのの公開生放送や!」と、はしゃぐ「りっちー」
さっき出会ったばかりだけど、いつものように「つのちゃん」と打っていく。
新馬戦はやらない「つのちゃん」
レースを絞って勝負の「りっちー」
順調に俺だけが外していく。
2時間ほどで予定のある「りっちー」が抜け、その後は2人で遊んだ。

俺に運があれば、今回の旅費が出ると思っていたが…
安いワイドを一本取っただけで終わった。
後半は暑さと二日酔いでグダグダ。
「つのちゃん」は相変わらず「つの仙人」なとこを見せプラス。
難しかった両メインもワイドで拾うファインプレー。
アイビスサマーダッシュは、もう少し手が広げられて3連複ゲットしてたら、盗んで逃げようかと思うくらいの配当だった。

「わしが降りたら、その少し先で乗換やで。」

「了解。なんとかなるやろ。」

「りっちー」も「つのちゃん」もホームの関西ということで、俺を心配してくれる。
2人と電車に乗ったなんて不思議な気分。
生まれも育ちも住んでるとこも違う、2年くらい前は知りもしなかった人。

「もう少し時間があるんならなあ。」

「そうなんやけど、今日帰らんと来週がきついけんね。」

「そやなあ。」

「今から帰っても夜中やしね。」

ほんとは俺も、もう少し話がしたかった。
競馬以外の話、真面目な話、そんなのが尽きた後のグダグダな話。
下戸の「つのちゃん」に絡み酒で、いつまでも飲んでいたかった。
でも今はこれでいいんだろう。
少し足らないくらいで、また会いたくなるくらいで。
きっと「りっちー」にも「つのちゃん」にも、また会えるはずだから。

「ほんじゃ先に降りるで。」

「ありがとうね。」

「気ぃつけてや。」

「またね。」

1人になると、なんだか寂しくなった。
普段の生活では仕事以外では人に会わない。
旅の間はずっと誰かといた。
今から行くところが、帰るところな気がしなかった。
遠く離れているし、何ができるわけでもないのに大切な人たち。
競馬に人生を重ねるなんて、あまり意味がわからなかった。
出会い別れ、世代が変わる。
自分がこの歳になって感じることがある。
サラブレッドのサイクルは人と比べると早い。
でも命あるものは次の瞬間はわからない。
最後まで見たいか、見たくないか。
俺は先にいきたいと思ってるけど、そんな俺でも会いたいと言ってくれる人がいる。

「電車ガラガラやな。」

「あっ、3コーナーが見える。」

俺が咲けるとこはあんのかな。
俺を避ける人はいるけれど。

pirocks

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