「そういやさ、誕生日ていつだっけ?」
「12月です。」
「何日?」
「5日です。」
「こないだじゃん?歌でも歌おうか?」
「大丈夫です。自分へのプレゼントにライブ行ったんで。」
10倍あるならドウデュースの単勝を買おうと思った週頭。
枠順決まり、5番のドウデュース。
赤い帽子、武豊がサンタクロース?
5倍の単勝、あの子は5日。
いつかはあの子と…万馬券?
武豊てなに?
ドウデュースてなに?
競馬てなに?
夢て?
浪漫て?
何を見せてくれるの?
何が見たいの?
希望して失望して繰り返しじゃないの?
今日、何を見たの?
弥生賞の後、皐月賞を勝って、クラシックが終わって…
次の秋にはマイラーになってると思ってた。
皐月賞で負けて、ダービーに勝って、凱旋門賞へ行って…
なにがなんだかわかんなくなった。
タイトルホルダーと横山和生も、自分たちの競馬をしてラストランを決めた。
スターズオンアースとルメールも、大外からスタート決め打って力を見せた。
今はジョッキーカメラなんて便利なものがある。
ドウデュースと武豊はレールの上を走ってるようだった。
勝利への唯一の道を。
誰に用意された舞台だったのか?
誰だけが走れるレールだったか?
タイトルホルダーと横山和生がカウントする。
スターズオンアースとルメールがリフを刻みだす。
武豊がベースを走らせ、ドウデュースが歌う。
3頭と3人のトリオ。
忘れられないナンバー、有馬記念。
それぞれの走り、それぞれの音。
目に見えるもの、目に見えぬもの。
言葉のない、手綱とハミのコミュニケーション。
言葉のいらない、手綱とハミのコミュニケーション。
なんだったんだ有馬記念?
何を見せられたんだ?
なぜ誰もが興奮を抑え静かに語るの?
湧き上がるもの、込み上げるもの…
それを表すのは荒ぶることではない。
絞りきり、出しきった後に、彼らの手の中だけにある感触。
その痺れが、いつまでも信じられないことのよう。
握りしめ掴んだ感触。
そこにあったもの。
手を開くと消える光。
魔法のように。
生産者の、オーナーの、調教師の、騎手の…
思いを具現化する乗り物。
ファンの想いをのせ、どんどん大きくなる。
いつ途切れるかわからない道。
いつまでも見ていたい光。
恋人もサンタもいない。
でもね…
夢見る心を忘れた頃に…
赤い帽子の武豊がドウデュースに乗って…