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黒鹿毛の夜

「よお、おまえよう。」

「なんすか?」

「19901108たらなんだよ?」

「んー。COMPLEX?」

「おー!正解。」

「なんのことかと思ったら、んなことすか?」

「いや、まあ…なんつーかさ。」

「わけわかんねぇなあ。」

「まあ、そういうことだよ。」

「なんだよ。」

そんな出会いがあった。

わけのわからない男と、気が合ったのか、気に入られたのか…
よくわからないまま、飯を食いにいったりするようになった。
その当時としては不思議なことだった。
毎日のようにロックバーに入り浸っていて、酒とロックが好きなら、誰も彼もが仲間のような顔をしていた。
でも、誰も何も知らなかった。
たぶん誰も本当のことなど喋ってはいなかった。
その場に合わせ、踊り歌い叫ぶ。
そこであって、どこかに流れたりして、朝がくれば別れる。
また夜が来て、そこで会えばまた繰り返す、その場限りのセッション。
仲間のような顔をし、仲間のように語る、いつの間にかいなくなる奴ら。
その中で自分1人が本当のことを喋っていて、裏で田舎者のダサいやつと馬鹿にされていた。

ある時、わけのわからない男に焼鳥屋に誘われた。
小さな町の狭い通りに店はあった。
いつものロックバーからはそんなに離れてないが、足を踏み入れたことのないところ。
わけのわからない男が暖簾をくぐると、すぐに温かい声がかかり、座敷に通される。
どうやら地元の店らしい。
都会の下町、その繋がりがどんなものか、田舎者の俺は知らなかった。

「こいつさ、あの店で知り合ってよ、音楽も合うしよ、聞いたら競馬も好きだっつーからよ。」

「へー、そうなんだ。とりあえず瓶ビールでいい?」

「お願いします。」

昔ながらの小さなコップと瓶ビール。
差しつ差されつ、馬の話を重ねる。
いくら飲んだかわからなくなった頃、俺は話し始めた。

「家に帰って録画してたビデオ見たら、なぜかノイズが入っててさ。」

「2回目の春天でさ、すげぇと思ってさ。」

「んで宝塚でさ…」

途中から涙を流しながら語っていた。
初めて行った店で。

「おうおう、わかったわかった。」

「わかったか?この野郎!」

「よし、もう一軒行くぞ!」

「当たり前だろ!」

俺は酔うと、泣くし、暴れるし、なんでもする。
本当にどうしようもない男だ。
あれから20年はたった。
わけのわからない男に家族ができ、多くの仲間と頑張っている。
もうあの頃には戻れないだろう。
俺?
俺は何も変わっちゃいない。
相変わらずのクズだ。
酒に酔い、大口を叩き、女を泣かせる。
泣いた女を見てはしらけ、終わった後に別の女の前で泣く。
変わったことといえば、音楽の仲間はいなくなり、競馬の仲間が増えたかもしれない。
正しくは、競馬と音楽の仲間かな?
俺とわけのわからない男のまわりは、音楽だけでも、競馬だけでもダメらしい。
競馬、酒と音楽。
わけのわからない男と違って、俺はどれも好きかどうかわからないけど。

あれから30年…
去年、新しい仲間と、新しくなった淀で、変わらないお前の碑を見た。
何が起こるでもない、何を思うわけでもない。
何も変わらない俺がそこにいた。
俺はまだ欠けている。
賭けて、駆けて、欠ける。
おまえもそうだったのか?

お前が輝いた坂の途中。
永遠に刻まれた記憶。
なあライスシャワーよ。
お前はまだ駆けているか?

pirocks

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