ドウデュースがドウデュースして、武豊が武豊したジャパンカップだった。
それ以上でもそれ以下でもなく、俺にはなにもない、金もないジャパンカップとなった。
前日の3歳以上1勝クラスが2:24.7。
12.8 – 11.5 – 12.2 – 12.3 – 12.5 – 12.3 – 11.9 – 11.9 – 11.9 – 11.7 – 11.8 – 11.9
ジャパンカップは2:25.5。
12.7 – 11.4 – 13.0 – 12.9 – 12.2 – 12.3 – 12.5 – 12.6 – 12.5 – 11.5 – 10.8 – 11.1
ジャパンカップは上がり33秒代を12頭が記録し、そのほとんどが33秒前半。
最下位入線となったソールオリエンスが35.2で、勝ったドウデュースが32.7。
これが英ダービー馬、キングジョージ馬の参戦があり、昨年ロンジンワールドベストレースを受賞したジャパンカップである。
もうこれ以上言うことはない。
世界よ、これが日本競馬の古馬クラシックディスタンスの混合戦だ!
ドゥレッツァで足りるレースになった。
菊花賞で素晴らしいパフォーマンスを見せたし、決して弱い馬だとは思わないが、金鯱賞のパフォーマンスから中距離戦ではスピード不足だと思い、鐚一文買う気がなかった。
名手ビュイックの好判断に応えられる操作性の良さ。
素晴らしいパフォーマンスだった。
俺の目は節穴でした。
ちなみに、競馬上司がドゥレッツァを買える理由を長々と講釈垂れてきたのでムカついたことを記しておく。
わからないのはスローを演出した坂井瑠星。
出して行った時はやった!やりまくった!いけぇ!グロリアスデイズ!てなもんだったが…
ルメールくらいしかやれないと思っていた向正面捲りをドゥレッツァに決められ…
よく2着まで来たと思ったけど、もし武豊の早め外捲りを読んでいての2呼吸くらい待った仕掛けなら交わしてほしかった。
着差が着差だけに。
勝負に行って最後までなんとか脚を持たせた武豊の凄さを、そんなに強調しなくてもいいと思う。
若い挑戦者なのだから…
レース後、「スローが目に見えてた、何か来たらその後ろというイメージ。」とのことだが…
誰か来るのを待ったよね?
せっかく取ったスローの先手を離したよね?
やしきたかじんばりに、「かかってこんかい!」を見たかった。
去年、俺の目の前でモレイラ、ルメールを相手に早めに踏んでいって凌ぎきった坂井瑠星はどこへいった?
期待が大きいだけに、もっともっと怖い騎手になって欲しい。
上手いだけじゃなく、ちゃんとイカせられる男に。
ビュッ、イクッ!てくらいの勢いが欲しい。
じゃないとイメージダウン、イメージダウン、イメージダウンダウンダウン!だぜ?
なんの話や…
もし友道調教師の窃盗トラブルがなければ、おそらくドウデュース本命だったはず。
不祥事続きで競馬に疲れた。
土曜は編集長と多摩川競艇からの飯だったが、競馬でも競艇でもとにかく良いレースが見たい。
高いレベルの争いだからこそ賭けたくなるのだと語り合っていた。
好きかな?好きかも?一回くらいできたらいいな…とかではないのだ。
競馬はもっと愛憎入り混じったメビウスの輪。
生きてるとたまに振り返ることがある。
無くしたもの得たものなんてことを考えたりする。
俺なら、それでも音楽、本、競馬はそばにあるな…とか思う。
何年?何十年だよ?
このままだと無関心になってしまう。
それが怖い…のか?
ビビってんのか俺?
ちょっと距離を置いた方がいいんだろうな。
ジャパンカップ当日は酒と疲れにやられていた。
ギリギリ間に合う時間にフラフラと家を出た。
今年最後の東京開催なのに…
競馬場について、仕込んであったスマッピーで馬券を買う。
編集長と息子が来てるはずだが、すでに電波が怪しくなっていて連絡するのが億劫。
一服してパドックへ。
人がいっぱいでどもならん。
なんとか見えるところをとウロウロしてたら息子発見。
編集長も合流。
息子の知り合いの子が来るらしい。
ドウデュース推しとのこと。
ジャパンカップのパドックを見てると逸れてしまった。
俺は指定席がないのでいつもの4コーナーへ歩いていく。
そのうち編集長が合流。
俺たちはいろんなレースをここで見てきた。
ゴール板近くで人に揉まれるより、勝負の4コーナーが好きだ。
仕掛けどころを目の前で見て、ゴールの方へ振り向く時がたまらない。
ドウデュースが仕掛け、馬群を飲み込む。
少し早いかと思ったが杞憂に終わった。
最後は失速していたのだろうが、武豊は間に合わせた。
ドウデュースもよく踏ん張った。
出来ることなら、去年武豊で見たかった。
ダービーの後、イクイノックスと交わったところに武豊はいなかった。
それも物語の想像力を膨らませることだろう。
「ドウデュースだ!」
「すごいねぇ。」
「ドゥレッツァ以外、掲示板みんな持ってるのに…」
「俺は日英ダービー馬だったからな。」
そんなことを言いながらスタンドの方に歩いてく。
息子と仲間の子を発見。
合流するとものすごい良い笑顔。
「すごかったねぇ、ドウデュース。」
「いやあ、ほんとに感動しました。」
「良かったねぇ!おめでとう。」
「種牡馬になってもすごい子を出しそうですよね。」
「んー、うちは血統屋だからなあ…」
「距離も大丈夫だろうし、身体も凄いの出そうじゃないですか?」
「一子相伝型かもね?ルドルフからテイオーみたいな?」
「そうかもしれませんね。楽しみです。」
俺は横でドウデュースの血統表を見ながら心の中で…
そうだね。
そうなると良いね…
ここで野暮なこと言うほど若くもないしね。
しかし、なんという笑顔だろう。
編集長を真っ直ぐに見つめてキラキラしてる。
俺もこんなふうに馬の事を話していたのだろうか?
俺は何を得て、何を失ったのか…
これじゃブランキージェットシティ、ベンジーの言うところの「青い花」だ。
ターフに咲いたドウデュースという花を、こんなにも嬉しく喜びに溢れ語る顔がある。
そんな幸せの鐘が鳴り響き、その横で僕はただ楽しいふりをする。
遠く離れた街に住む人のことを思う。
「何を愛するの僕たちの世代。」
俺たちは何を見て、何に感動し、突き動かされてきたのか…
答えなく彷徨い続け、いつかどこかに辿り着くのか…
血統表を見て、美しい絵のようだと彼は言う。
いろいろな美しさがあるが、もう彼の愛した風景はそこにはない。
その色が甦ることはない。
それでも彼は絵を見続けることをやめない。
まだ見ぬ風景を探して。
想像もできない色を探して。
俺はいつか彼が筆を取る瞬間を待っているのかもしれない。