雨。

雨。

会社を出て、しばらく歩くと降り出した。
朝の予想では雨は止むらしい。
空模様は怪しかったが、これくらいの雨ならバス停まで濡れればいい。
ひどくなるようならどこかで一杯引っかけて帰るか?
そんな事を考えながら、走り出すほどでもない雨の中を行く。
寒くなってきたし、少し濡れた後の熱燗てのも乙なもんだ。
コロナ禍で足が遠のいているが、女将のとこはやってるかな?
雨さえかわせば、駅から徒歩5分ほどで自宅だ。
明日は休みだが、雨のせいにして飲みすぎないようにしなきゃな…

その時、傘が差し出された。
後ろを振り向くと、同じ課の子だった。
控えめながらも芯の強そうな、どちらかと言うと苦手な子だ。
仕事上でもあまり会話を交わしたこともなく、なぜ傘を差し出してくれたのか不思議だった。

「あのバス停まで行くんですよね?入っていってください。」

「いや、大丈夫。それほど強くないし…」

その瞬間、傘を叩く雨音が激しさを増した。

「いいから入ってください。目の前で濡れられて風邪でも引かられたら夢見が悪いんで。」

言い出したら聞かなそうな子だもんなあ…
戸惑いと困惑が顔に出たみたいで、改めて傘を突き出される。
目の高さに来たその手に、ドドメ色のマニキュアが塗られていた。

「じゃあ、バス停までお願いしようかな?」

歩き出したものの会話もなく、一回りは離れているだろう女の子に傘を差しかけられている状況が大変気まずい。

「誰かに見られたら困るとか思ってんですか?」

「いや、そういうわけじゃないが…」

いちいち人の顔色を読むんじゃないよ…
だがよく見ると、傘の下の微妙な距離感で彼女の肩が濡れている。
女物の傘ではしょうがないが、その気遣いに申し訳なさが湧き上がってくる。

「どちら方面か知らないけど駅までは行くでしょ?お礼と言っちゃなんだが、知り合いの店がある。少し濡れてしまったでしょう?そこならタオルも借りられる。予定がなければ、ご馳走させてもらえないか?」

「あ、気にしないでください。予定はないですけど、そんなつもりでしたことじゃないですから。」

「そうか。女将が九州出身で優しい出汁のおでんに柚子胡椒がつくんだが…今度何かで埋め合わせさせてくれ。とにかくありがとう。」

「え?おでんに柚子胡椒…芋の湯割りつきます?」

「そりゃもちろん。いける口かい?」

「ええまあ嗜む程度ですけど、私も九州生まれなんで…」

暖簾を括るとすぐに声が飛んできた。

「あら珍しい。今日は娘さんと一緒?久しぶりだと思ったら、いつのまにか結婚してこんな大きな娘さんまで作って…」

「ちょっと待ってくれ女将。会社の子だよ。まずは彼女にタオルを貸してやってくれ。傘に入れてもらったお礼で連れてきただけだ。」

「やだ。新手のナンパ?わざと傘持っていかなかったんでしょ?」

「勘弁してくれよ。彼女が九州出身だっていうから、女将も喜ぶかなって思って連れてきただけだよ。」

「そうなの?どこ?」

「北九州です。」

「あらやだ。私もよ。それじゃ今夜はジジイの金で2人で盛り上がっちゃおう。いけるでしょ?芋の湯割りでいい?あたしも頂いちゃおう。」

おでんと湯割りで身体も暖まったところで酒を切り替える。
燗酒に銘柄は求めないが、常温なら話は別だ。

「女将、あれある?いつもの上撰の辛口。」

「五橋でしょ?あるわよ。」

「頼むわ。」

「先輩は日本酒飲めるんですね。」

「他のは飲まないんだが、祖父が好きでね。故郷の味らしくて。」

「へえ、お祖父さんは山口出身なんですね。」

「お、よく知ってるねぇ。」

「お隣ですから。昔から有名ですし。女将さん、私も同じのください。」

故郷の話で盛り上がる2人を横目に、数年前に亡くなった祖父のことを思い出していた…
口数少なく、働き者の祖父。
同じ血が流れてるのが不思議なくらい、俺とは逆だ。
まあ残念ながらその血も俺で終わるだろうが…

なんだか優しい辛口のはずが、今日はなぜか染みる。
古い傷じゃないが、雨だからか?

「なに暗い顔してるんですか?酔ったから言いますけど、先輩けっこう若い子から人気なんですよ?」

「あら良かったじゃない?でもあんた、女運ないのよねぇ。」

「女将、こんな俺でも会社での立場がある。勘弁してくれ。」

「ええっ、それちょっと聞きたいかも…」

「この人さあ、悪くない男なんだけど、変な女に引っかかるのよねぇ。」

「女将さん話の前に、もう一杯ください!」

とかなんとかあって、女将と合体エンドと若い子と合体エンドどちらだったか?

宇宙なら夢があるが、現実の私は雨中でずぶ濡れ自転車だった。

昼くらいまでは、今週で川田将雅のG 1連敗ストップなるか?とか、有馬記念もなかなかの好メンバーになりそうだとか考えてたんだけど…
帰宅から着てるもの全部洗濯機に入れて、シャワー浴びて出てきたら、こんなコラムになった。

雨の中で自転車で走ってると、段差乗り越える時にグリップしないでスライドしそうになるし、視界は悪いし…
雨降ると荒れるから楽しいとか思ってたけど、レースしてる騎手と馬は大変なんだよなあと。

止まないまでも、弱くなるだろと思って走り出したんだけど…
もうね必死よ。マイヨジョーヌ着れるくらいに。
母父はマルゼンスキーよ。父はもちろんリヴリア!
なんていうか、ナリタタイシンもワコーチカコにも負けないくらいの差脚だったわ。

頭の中はずっと「パーキンメーター!」と「雨に打たれてりゃいい…」が交互にエンドレスリピートだし、ズボンはぴったりフィットしてくるし…カッパ着てないのにバッグだけ防水だし…

最後の方は泣いてたわ。

リヴリアてプリンスリーギフトてか、テスコボーイあたりで残んなかったのかなあ…

残ってたら面白いんじゃないかなあ…

てな事を雨中で必死の壊れかけのラジオのマイヨジョーヌは思っていたわけ。

ん?リヴリアじゃないけど、リヴァーマンにトウショウボーイて母系で残ってるなてとこに気付いたところで、今回のコラムは終了。

しかし、今年の秋はどの路線も、どのレースも好メンバーで良いレースになりそうだ。

ここ何年かの競馬ファンの鬱憤を晴らすようだな。

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