秋天はドウデュース

秋天はドウデュース

その時、俺は多摩川競艇場外の指定席にいた。
戸田で行われているSGボートレースダービーを打っていた。
腰の状態が悪く、指定席の取れなかった競馬場より競艇を選んだ。
入場券で立ち見も一瞬考えたが、疲れた身体でライブハウスのようになるであろう競馬場は無理だ。
競馬場の指定席も、もう少し良いモニターがあり、パドックだけを流すチャンネルとかあれば、パドックと席の往復もしなくなるかもしれない。
落ち着いて、ゆっくり楽しみたいのだ。
群衆にもみくちゃにされ、壊れたオモチャのように手拍子し、変な薬やったんじゃねぇか?てなテンションで叫び声をあげるなんて嫌だ。
知識があり、博打が好きで、気を使わなくてすむ奴らとじゃないと1人が良い。
競馬と俺の間に何もないほうがいい。
俺は俺の楽しみを奪われたり、汚されたりしたくないのだ。

SG優勝戦の展示航走を確認し、スマホでJRAのレースライブを開く。
もう直線で、ドウデュースが抜け出てくるとこだった。
その瞬間、「ああ、これはダービーで目の前で見たやつだ。」と思った。
あの時はスタート地点で見てた。
武豊の仕掛けにドウデュースが反応した瞬間、エンジンに火がついたとか、飼い慣らされたものが獣に変わったとか、なんともうまく言えないが、何かが変わるのを、何かが動くのを感じた。
一頭だけに目を奪われた。
現地で観戦してた方たち、特に残り400あたりで見てた方は俺の言う感覚がわかると思う。
肌が粟立つ、圧倒的な何かに身体が否応もなく反応してる感じ。
何度かレースを見直したが、今はどこでそう感じたのか?と思う。
おそらく、ダービーを見てなければなかった感覚だろう。
年老いて感じることが少なくなってきた俺にも届く何か。
それはなんだろう?
俺は知ってる。
知ってると思う。
天からの贈りものだ。

天馬を調べると、駿馬とかペガサスとか出てくる。
競馬を付け加えると、トウショウボーイの名が出てくる。
トウショウボーイがどうだったかはわからないけど、個人的に天馬と言われたら、オグリキャップがそうだったんじゃないかと思う。
そう思うようになったのは…ウオッカのせいだ。
ウオッカは天からもたらされたものじゃないか?と考えて行った先のこと。
ウオッカは天馬、ウオッカはトウショウボーイ、ウオッカはその血をひくもの。
強いのか弱いのか?歴代最強とかではない。
よくわからないけれど節目節目で強烈に酔わせる。
何かを持ってる。
何かを持たされている。
そして俺たちは何かをもたらせれている。

トウショウボーイ、オグリキャップ、ウオッカ…
共通点はなんだ?
トウショウボーイはダービーで敗れ、オグリキャップは出走することすら叶わなかった。
オグリキャップがダービーに出れてたらどうだろう?
この年のダービー馬はサクラチヨノオー。
ちょっと厳しいかな?
メジロアルダンを脅威の差し返しだもんなあ…
出れなかったことが天馬だったか?
あとはなんだ?
マイルから中距離が適性だが、それ以外でもなんとかこなしてしまうところか?
そんなもんじゃないな…
この系譜にドウデュースを入れても、一つ共通点がある。
武だ。
天馬の触媒は武家の血なのか?

ドウデュース、なんと不思議な馬だ。
とてもダービーなんて無理だと思ってたし、父ハーツクライてのも納得いかない。
父ディープインパクトなら、すっきりするんだけど…
鳶が鷹を産むまでは言わないが、親父のイメージと違いすぎないか?
なんなんだろうな…
あ、さっきの天馬の系譜の共通点で、もう一つ思い浮かんだ。
見たものを幸せな気分にさせるって感じ。
それこそ、トウショウボーイなんか遠過ぎてわからないが、オグリキャップが最後に有馬記念勝った時とか、ウオッカの最後のジャパンカップとかさ、みんな良かった良かったてなったんじゃない?
馬券が外れても、良いもの見れたなんて笑顔になったりしてさ。
生で見た人なんか、競馬の美しさというか、サラブレッドの美しさに感動したりしてさ。

競馬、博打、レースの前の段階。
生産は神への挑戦だと思ってる。
人間てどれだけ思い上がれるんだとも。
産業革命、近代の幕開け。
近親交配による資質固定。
自然交配のみの縛り。
機械と違って生物的限界があるはず。
そんなマシンを限界までチューニング、セッティング。
サラブレッドはイカロスの翼。
人間への警鐘。
馬がこんなにも美しくなければ、速くなければ、人は魅力されることなかったのだろう。
それでも馬は走り出す。
本能、存在の証明…

積み重ねられてきた時間と想い。
目の前を走ってるのはそれだと、天からの使者は教えてくれる。
難しいことは何一つない。
何もかも忘れ、ただ感じ、酔えばいいのだ。
その美しさに。

ドウデュース。
ダービー馬だけが持つ光。
先へ、未来へと導く光。
人に出来るのは、競馬を汚さないことだけ。

素晴らしい末脚でした。
感服、眼福!
ありがとう、ドウデュース!

pirocks

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