競馬上司からの誘い

競馬上司からの誘い

万馬券に万を張れ!がテーマの土曜日、俺は久々にパークウインズ東京競馬場にいた。
いたのだが…結論から言うとそんなレースはなかった。
「来た球を打つんです。」は天才前田智徳だからできること。
今回の俺は「打てる球がこんのです。」だった。
そして用意していたお金は、今月で別店舗へ移動な女店長の焼鳥屋で消費され、お父さんが競馬をやっていて私も興味があるというのでG-ZEROを教え、「俺にもワンチャンあるかもしんないじゃん?」に、セナに抜かれたアレジが見せた切り返しの反応速度で、「気持ち悪い…」とマヂ顔されて、とうとう俺も気持ち悪いと言われるオッサンになったのだと、少し哀しいような少し誇らしいような気持ちになった。
若い子はこんな底辺の独り者のオッサンにかまわずに、金の匂いのする方へと行くべきなのだ。
ただ、こんなオッサンも若い頃があり、それなりに需要があったということだ。
レギュラーではなかったが、チームに貢献してきたし、代打の切り札と呼ばれたこともあった。
今もバットとボールは手放さないが、とてもプロのレベルにはない。
誰にでも青春があり、輝く時間がある。
多くの人はいつまでも輝く星ではないというだけだ。

焼鳥屋のカウンターを、メガハイボールが前半33秒で逃げている。
俺は酔眼で1日を振り返る。
暑熱対策の新潟開幕。
札幌はいつもと同じ時間割。
朝は通常の2場開催と変わらない。
問題は昼からだ。
札幌だけになりレース間隔が長い。
考える時間が長く取れるともいえるが、俺にはスローでテンポが合わない。
パークウインズは新潟最終までやっているというが、当たらないし飽きて札幌最終で帰宅することに。
何をやっても当たらない日がある。
そんな日は早く飲んで早く寝てしまうが勝ちだろう。
負ける時は傷は浅く、勝つ時はケツの毛まで毟るのだ!
この判断は間違ってなかったと思う。
当たらない日が2日、3日、4日…永遠に続くんじゃないか?て日々もある。

今週末はボートレースSGオーシャンカップが行われており、編集長が多摩川の王と名乗るきっかけになった茅原悠紀選手が出場。
杯を重ねながら調べると優勝戦に進んだらしい…
これは明日はボートレースか?なんて思ってると電話が鳴った。
ここが運命の分かれ道だった?
ちなみにであるが、茅原選手はSG初制覇から9年7か月ぶり2度目の優勝。
俺の予想も8点で3連単4510円的中だった。
買ってないレースはよく当たるなんていうが、エア舟券とはいえ今週末唯一の当たりだった。
見事なレースを見せた後、涙の優勝インタビューにグッときた。
その世界の最高峰制覇から約10年。
2度とないのかと思ったかもしれない。
これで二度あることは三度あるとなるといいね。

通知を見ると上司からだった。
こんな時間になんだろう…
ぐちゃぐちゃになってる現場のことだろうな…
すでにだいぶ酔うとるのに…とは思ったが、仕事の話だと聞かないわけにもいかないので出る。
案の定な件だったが、どうしても納得ができない旨はメールで伝えてあった。
酔えば酔うほど許せなかった。
ただ、どうしようもない話だった。
所詮は下請。
肉体労働業界で今は協力会社なんて美しい言い方、扱いをしてくれるところもあるが、ここはそうではない。
ただの人夫出しで消耗品だ。
一通り話が済んで上司が切り出した。

「明日は競馬場行くんですか?」

「なんですか?家で打とうと思ってますけど。」

「明日は身体空いて行けるんすよね。」

「だったら席取りましょうか?ご一緒しますよ。」

「ほんとですか?お願いします。」

「それじゃ席取ったらQRコードをメールしますよ。」

「ありがとうございます。」

ということで、酔った頭には何が何だかだったが、2日連続でパークウインズ東京競馬場となり、プライベートでは酒も飲んだこともない上司と競馬をすることになった。
今思えば、勝負ではなく遊びにすべきだった。
酷暑の中で働き、現場は上手く回らず、疲れ果てた身体で、頭は回るはずない。
俺は確認障害ではないが、何度も鍵をかけたか確認して仕事を終えていた。
「もうお前は負けている。」
追い込まれて力を出す人もいるだろうが、仕事も勝負も余裕がある方が勝つもんだ。
武士や博徒ではないのだ。
命を賭けて勝負なんてできない。

日曜、上司により先にパークウインズへ。
順調に間が抜けていく。
魂まで抜けるんじゃないかというくらい間抜作。
間抜作といえば、「ついでにとんちんかん」だが、俺はいつも頓珍漢だ。
そうこうしてると上司から到着の電話。
合流し、上司も順調に外していく。

「なんかさ、せっかく上司が来てるからええとこ見せようとか思わんように、いつものスタイルでと思ってるんですが…」

「それは自分もそうです。なかなか当たりませんね。」

この日の勝敗の決め手となったのはお互いに札幌4レースだった。
安易にというわけではないが、それぞれの理由で軸に選んだ1番人気が後方のまま。
見事な紐決着で縦目炸裂の3連複は400倍。
ボックスにしとけば…軸さえ間違えなければ…
アフターフェスティバル開幕!
あとの祭だぁぁぁぁ!
ちなみに、もう口にするのが嫌だし、批判と取られても敵わないので名前は伏せるが、この騎手はこの日6鞍で馬券内は3着1回。
人気馬に乗ることが多いが…
もちろん、買った俺が悪いの前提でだが…
騎手は乗れば負けても騎乗手当、俺たちは外れれば何の手当もない…
わかってんのか?と言いたくなる。
兄貴の方は良い思い出が多いのだけど、最近は買い時がわからない。
すれ違いが多く、この家系の人は…と思う。
ついでにだが、我らのベストパートナー、「北海の守護神」丹内祐次はこの日なんと…
12レースすべてに騎乗し、メインのクイーンステークスをコガネノソラで勝利、3着6回と意味のわからない活躍だった。
途中で上司と2人、丹内は3着固定で買えば良いんじゃない?と気づいたが…
相手が来ないんじゃあね…

この後、上司と2人壊れていった…
出目、下ネタ、馬名を捩ったり、娘の誕生日など、思いつくありとあらゆるものを試した。
なぜなら、まともに考えても当たらない日だから。

札幌8レース

「やばい。見つけちゃった…」

「どうしたんすか?」

「これ見てください。レディーエンジェル菱田裕二!」

「それがどうかしたんすか?」

「レディーエンジェル菱田裕二、トレンディーエンジェル織田裕二!」

「斎藤さんじゃないんすか?」

「相手は…とりあえず丹内祐次。ん?イイデスカイハイは地方馬なのに永野猛蔵?ま、ないか。」

「なんすか?いいですか、位牌?」

「不謹慎すぎるでしょ?」

結果、イイデスカイハイが3着で3連複700倍。

続いて札幌9レース阿寒湖特別。

「阿寒湖て湖でしょ?ワレハウミノコ武豊は消しすね。」

「1番人気のルメールでしゃあなしすかね…」

「2番人気の西村淳はどうすか?」

「ルメールがアドマイヤテラ…寺でしょ?西村淳のはアスターブジエ。寺で無事ってなくないすか?」

「寺?ナムアミダブツいますよ?さっきは位牌でしょ?テラとナムアミダブツ軸で間違いないす!」

「んぢゃそこにノーブルクライ、cryでも足しますか?」

結果は、アスターブジエ→アドマイヤテラ→ノーブルクライで3連複10倍。
9番人気ナムアミダブツは5着。チーン!

この日の丹内祐次は3着を連発。
この日の上司は軸4着を連発。
メインでも発動させ無事に2人ともノーヒットノーラン達成。
用事のあった上司が札幌最終までとのことだったので帰路へ。
別れ際に、少しのつもりの仕事の話が長くなり…
長くなったが…とりあえず来月は白紙でお願いしますで終わらせた。
まあまた競馬行きましょうと別れた。
たぶん俺が競馬好きじゃなければ、とっくの昔にクビだろうなと自転車を漕ぎ出す。

競馬の帰りに金を下ろしにいくのはせつない。
明日など来なくてもよいのに、明日の用意をしてる。
したくもない来週の約束のメールが来る。
なんでみんな、明日が来ると思ってるんだろう。

pirocks

1日1クリック!皆さん、応援よろしくお願いしますm(__)m


Advertisement

酔いどれ競馬カテゴリの最新記事